働き方改革時代の残業ルール 3つの落とし穴

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2017年5月10日

働き方改革時代の残業ルール 3つの落とし穴

日本の人口や労働力人口が減少フェーズに入った中で、長時間労働・残業などの悪しき慣習が日本経済の足を引っ張って生産性低下の原因になっているとして、安倍政権は「働き方改革」に積極的な動きを見せています。

 

特に、残業ルールと残業代の支払いについては、いわゆる電通の過労死事件を契機に、労基署がこれまで以上に厳しい監督と処分をするようになりました。

 

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1 未払い残業代が招く会社の悲劇

 

1日8時間、1週間40時間を超えた労働については、平均賃金の1.25倍の割増賃金を支払わなければならないというのが労働基準法のルールです。
また、休日出勤(法定休日)の労働については1.35倍、深夜労働(夜10時から翌朝5時まで)についてはさらに0.25倍の割増賃金の支払いが必要です。

 

よくある間違いの例

  • うちは年俸制を採用しているから大丈夫
  • うちは採用時に残業代込みと説明しているから大丈夫
  • うちは日給制だから大丈夫
  • うちは管理職手当を払っているから大丈夫

 

これらは、よく聞く話ですが、すべて間違いです。いずれの場合でも、1日8時間、1週間40時間を超えた労働については残業代の支払いが必要です。

 

 残業代は膨張し、会社を倒産に追い込む

 

社員は通常、会社に勤務している間は、不払い残業代を請求してきません。会社を辞めるときに、労基署や弁護士に相談して、過去にさかのぼって残業代を請求してくるケースがほとんどです。
残業代の消滅時効期間は2年ですから、会社は過去2年分の未払い残業代を支払わなければなりません。

 

さらに、会社は、残業代を請求してきた社員にだけ未払い残業代を払えばいいわけではありません。労基署の調査が入ると、全従業員に対する過去2年間の残業代を支払うよう勧告されます。

 

最近の報道でも、

 ヤマト運輸(HD) 190億円
 大和ハウス      32億円
 関西電力       17億円

など、多額の残業代支払いのニュースを耳にします。

 

その上、裁判で残業代の支払いを求められた場合、裁判所は付加金という名のペナルティを科すことがあります。本来払うべき残業代と同額の付加金を支払えと命じられると、会社の支払額はさらに2倍にふくれあがります。

 

もし、あなたの会社に未払い残業代があるとしたら、全従業員に過去2年間に支払うべき金額の2倍がいくらになるかを計算してみてください。残業代の請求がきっかけで会社が倒産することもありますので、注意と対策が必要です。

 

2 みなし残業代(固定残業代)を払っていれば大丈夫?

 

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営業手当や職務手当などの名目で一定額のみなし残業代(固定残業代)を払っている会社もあります。しかし、このみなし残業代を払っているから残業時間の管理をしなくてもいいわけではありません。それどころか、私の経験では、みなし残業代の制度を適法に運用している会社はあまりなく、ほとんどの会社では制度に不備があり、争いになった場合、改めて残業代の支払いをしなければならないことになります。

 

みなし残業時間を超えた場合には、残業代を払わなければならない

 

みなし残業制度は、毎月一定時間の残業があったものとみなし、実際に残業をしたか否かにかかわらず手当を支払うという制度です。たとえば、毎月10時間の残業があるとみなして5万円を手当として支給していた場合、実際の残業時間が6時間であったとしても、5万円の手当が支払われます。
しかし、その付きの残業時間が15時間であった場合には、みなし残業時間をオーバーしているわけですから、超過した5時間分の割増賃金をさらに支払わなければなりません。
したがって、会社はみなし残業制度を取り入れたからといって、社員の労働時間を把握しなくていいわけではなく、上記の例でいえば10時間以上の残業をしている社員の残業代を計算して払わなければなりません。

 

割増賃金相当額に満たない場合

 

また、みなし残業代の額は、これに対応するみなし残業時間に対応する割増賃金額以上に設定されてなければなりません。上記の例でいえば、5万円という手当の金額が、当該社員の平均給与10時間分の1.25倍以上となっている必要があるわけです。

 

みなし残業代制度を社員も理解してなければ無効に

 

さらに、このみなし残業代制度が有効であるといえるためには、2つの要件をクリアする必要があります。

 

その1つ目が、固定給部分とみなし残業代部分を明確に分けて支給していることです。「残業代が固定給に含まれている」という説明は成り立ちません。

 

そして2つめが、「社員がこの制度を理解している」ということです。雇用契約書や個別の契約書でみなし残業代制度が説明され、合意されているのであれば問題ありません。よく問題となるのは就業規則に規定されているというケースです。就業規則でみなし残業代制度を採用することも認められていますが、その場合にはこの就業規則が周知徹底されていることが必要です。就業規則が誰にでも手に取れる場所に備え置かれ、かつ社員にこの制度の説明をしていることが求められますが、なかなかそこまで徹底できている会社は少ないものです。

 

 

3 残業代をきっちり払っていれば大丈夫?

 

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では、残業代をきっちり払っていれば、問題はないのでしょうか。残念ながらそうではありません。
いわゆる36協定(サブロク協定)の問題です。

 

そもそも36協定がなければ残業をさせられない

 

36協定とは、正式には「時間外・休日労働に関する協定届」といいます。どのような会社でも労使で「定時を超えても残業をする」という協定を結び、労働基準監督署に届け出なければ、残業をさせること自体が違法になってしまうのです。

 

 36協定を締結しても、残業時間には上限がある

 

36協定を締結しても、許される残業時間は1か月45時間までです。どうしてもこの範囲に収まらない場合には36協定に「特別条項」を付加しなければなりません。
この特別条項は、たとえば「(限度時間を超える期間、時間につき)、納期の変更、大きなクレーム処理等逼迫した期限により、通常の業務量を超える業務が発生し、臨時に業務を行う必要がある場合には、労使の協議を経て1ヶ月に80時間、1年間を通じて750時間まで延長することができるものとする。この場合、限度時間を更に延長する回数は6回までとする。」というようなものになります。このような特別条項があっても、これを超えた残業が違法になることはいうまでもありません。

 

違反企業は厚労省のホームページで公表

 

これまでは、残業代を支払わない会社にはうるさかった労基署も、残業代を払っている会社の36協定にはあまり口を出してきませんでした。
しかし、いわゆる電通の女性社員過労死事件をきっかけに労基署は大きく方針を変え、最近では36協定を締結して残業代を支払っていても、特別条項の条件を上回る残業をさせているとして是正勧告を発令したり、労働基準法違反で捜査をするようになっています。

さらには、厚生労働省が今月から、違反企業を実名でホームページに掲載し、今後は毎月更新していくことになりました。
ここに名前が挙がった会社は、「ブラック企業」のレッテルを貼られ、その後の採用活動などにきわめて悪い影響があることが予想されます。

皆さんの会社が絶対にそのようなことにならないように、少しでも不安がある経営者は必ず顧問弁護士に相談をしてみてください。