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《経営者お役立情報》2018年9月30日
経営者なら必ず知っておくべきパワハラの定義と対処法
新聞やニュースで「パワハラ」が話題に上がらない日がないくらいだと言っても過言ではありません。スポーツ界ではレスリング、アメフト、体操、女子サッカー、ボクシングなど枚挙に暇がありませんし、私の所には企業のパワハラ問題のご相談もたくさん寄せられております。
●パワハラの定義とは
いわゆるバブル経済が崩壊し、不景気の中で成果を上げるため、上司からのプレッシャーが強まることでわが国にはパワハラの土壌ができてきました。その後、パワハラという和製英語が次第に広まっていきましたが、正確な定義を理解している人はあまりいないというのが現状です。そのため、「部下がパワハラだと感じれば、全部パワハラになってしまうのではないか」と心配し、部下に言いたいことも言えない上司もいるのではないかと思います。
現在、パワハラについて厚生労働省は以下のように定義と類型を発表しています。
【パワハラの定義】
職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対し、職務上の地位や人間関係などの優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて精神的・肉体的苦痛を与えたり、職場環境を悪化させたりする行為をいう。
【パワハラの類型】業務の適正な範囲を超えている例
①暴行などの「身体的な攻撃」
②暴言などの「精神的な攻撃」
③無視などの「人間関係からの切り離し」
④実行不可能な仕事の強制などの「過大な要求」
⑤能力とかけ離れた難易度の低い仕事を命じるなどの「過小な要求」
⑥私的なことに過度に立ち入る「個の侵害」
●類型別パワハラの実例
【暴行などの「身体的な攻撃」】
・飲食店で店長が、客の目の届かない厨房でスタッフの胸ぐらをつかみ、頭を小突きながら叱責した
・営業部の上司が、結果のでない部下を指導するため面談しているとき、カッとなってもっていたボールペンを顔付近に投げつけた
・経理部の上司が、部下を注意する際、部下の座っているいすを激しく蹴り、机を強くたたきつけた
【暴言などの「精神的な攻撃」】
・気が合わない部下に対して「給料泥棒」「会社の金をどぶに捨てているような物だ」「変な病気なんじゃないか」などの言葉を毎日のように言い続ける
【無視などの「人間関係からの切り離し」】
・部内で気の合わない部下と会話や挨拶をしないよう、他の部員に伝え、仕事上必要な情報も、故意にその部下にだけ知らせないようにした
【実行不可能な仕事の強制などの「過大な要求」】
・評価面談において、およそ実行できないような高すぎる目標を言い出すよう部下を誘導し、それを紙に書かせた上、その後達成できていないことを理由にプレッシャーをかけ続けた
【能力とかけ離れた難易度の低い仕事を命じるなどの「過小な要求」】
・部下の失敗を機に、倉庫の一角に机を置いて毎日そこに座らせた上、倉庫裏の草むしりをさせていた
【私的な事に過度に立ち入る「個の侵害」】
・休憩時間中に部下にたばこや弁当を買いに行かせたり、休日に自分の引っ越しの手伝いをさせた
●強制すると全部パワハラか?
まずは以下のような事例を考えてみて下さい。
■事例1■
A課長は、最近の部署内での問題を話し合うためにも、部署内でのコミュニケーションをとるため、毎月1回定時後に飲み会を開き、費用は会社が負担することとして部下たちに参加を呼びかけた。
皆さんは、これはパワハラに該当すると思いますか?
パワハラだという人の多くは「A課長が部下の都合を聞かず一方的に時間外の集合を強制している」ことを理由にあげます。
一方で、パワハラではないという人の多くは「この程度では強制とまでは言えない」ことを理由にあげるのです。
では、果たして、強制しているか否かがパワハラに該当するか否かを決めるのでしょうか。
次に、もう一つの事例を考えてみて下さい。
■事例2■
B課長は、部下を同伴でお客様とのミーティングを予定していたが、お客様の都合によってスケジュールを変更する必要が生じた。そこで、部下に対し「お客様とのスケジュールを来週月曜日の夜7時から会議室でするので準備しておくように」指示を出した。
これも、時間外のスケジュールについて強制をしていますが、ほとんどの方が「業務命令であってパワハラにはあたらない」と考えるのではないでしょうか。つまり、強制の有無でパワハラの該当性を判断する事はできないのです。
もうお気づきのように、「業務の適正な範囲」に含まれる事柄を強制するのは適法な業務命令であり、パワハラではありません。「業務の適正な範囲」に含まれない事を強制する事によって、パワハラに該当することになるのです。
●相手がパワハラと感じればアウト?
最近、部下がパワハラだと感じたら、全てパワハラになってしまうのではないかと心配になる上司が増えています。しかし、「納期を守るのは当たり前だろう!どうすれば期限を守れるか自分で考えろ!」など、仕事上当然のことを注意した場合、部下がそれをパワハラだと感じても、パワハラに該当しないことは当然です。
厚生労働省も公式に「業務上必要でかつ適正な範囲を超えない指示、注意、指導等は、たとえ相手が不満を感じたりしてもパワーハラスメントにはならない」と解説しています。
相手がどう感じるかを重視するセクハラとは分けて考える必要があります。相手の感じ方ではなく、その言動が業務の適正な範囲に含まれるのか、それとも逸脱しているのかを判断しなければならないのです。
●業務の適正な範囲って?
では、業務の適正な範囲とはどのようなものでしょうか。この点について上記の厚生労働省は、「業務上適正な範囲を超えるかは、業種や企業文化等の影響を受けるし、その行為が行われた具体的な状況にもよるから各企業・職場で認識をそろえ、その範囲を明確にする取り組みを行う事が望ましい」と言っています。つまり、その範囲は会社の外から決められるものではなく、それぞれの会社ごとに決まる事だということです。
上の図に示したように、明らかなパワハラと、明らかな正しい指導の間にグレーゾーンがあります。「行為者の言動を客観的に見れば、職場を維持していく上であってはならない言動だと断定はできないが、相手方が何らかの理由で、行為者の言動をパワハラだと感じる状況」のことを、パワハラ対策インストラクターの鈴木瑞穂さんは、「モヤハラ状況」と名づけました。
時間外の飲み会に参加するよう呼びかけることなどが典型的なモヤハラ状況です。
モヤハラ状況が「業務の適正な範囲」に入るかについては、以下のような個別要素で判断することになります。
・会社の伝統や社風
・行為者の思惑、意図
・行為者の言動の態様
・行為者と相手方との普段の関係
・行為者と相手方とのやりとりの状況や前後関係
・相手方がパワハラだと感じた理由
飲み会への参加呼びかけについても、元々ドライでお互いに干渉しない雰囲気の会社か、お互いのコミュニケーションを大切にする雰囲気の会社かによってパワハラ該当性の判断も分かれることになります。
●モヤハラ状況の対処方法
モヤハラ状況に関して管理職は以下のような対処が求められます。
・そのような状況が発生した原因(起爆剤)を把握し、相手方にパワハラだと感じさせない接し方をするようにする
・そのような状況になったら、パワハラにあたるか否かを判断し、その結論と理由を行為者と相手方双方に伝えて納得してもらう
最近、モヤハラの起爆剤になるのは、仕事の進め方についての見解の相違よりも、メールの使い方にあることが多いようです。
・夜中にメールが来た
・あと数時間で顔を合わせるのに、朝早くにメールが来た
・休日にメールが来た
などです。(ただし、思いついたことを忘れないうちにメールしておこうという意図でメールをしている場合、あまり深刻なトラブルにはならないようです。)
むしろ、「となりに座っている部下にメールする」「不要な人までccを入れる」などのケースの方がトラブルになりやすいので注意が必要です。
●純粋パワハラの対処法
一方、純粋パワハラに対して管理職に求める対処法は、
・自分自身、パワハラ行為は絶対にしない
・純粋パワハラをしている人がいたら、絶対に見逃さず、社内の規定に従った処分をする
というものになります。
パワハラを予防するためには、社内で「このようなことはパワハラになる」という事実の周知と共有により、各社員の心のブレーキを作り出していくよりほかにありません。パワハラ行為に対して適正な処分をすることにより、まわりの社員に対してもパワハラに関する知識と自覚を植え付けることができるのです。
そもそも、パワハラは法律に違反するから悪いことである以前に、会社の仕事効率やパフォーマンスを阻害するから悪いことなのです。
その意味では、職場にどのような雰囲気を作り出すことが本当にパフォーマンスを上げることにつながるかについて、上司も部下もよく考え、話し合うことが大切であることはいうまでもありません。