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2019年6月25日

働き方改革の内容と核心

いまや企業経営者間で「働き方改革」という言葉が飛び交うことは日常茶飯事となりました。2018年6月29日にいわゆる働き方関連法案が成立し、日本の労働環境は、大きな転換点を迎え、各企業でも対応が求められています。
働き方改革は「残業を減らす」という点がクローズアップされてしまいがちですが、労働時間を減らすのが働き方改革だと定義してしまうとその本質を見誤る恐れがあるので注意が必要です。

 

○なぜ、いま働き方改革か?

 

わが国は、少子高齢化の影響で、2013年を境に人口が減少する局面に入り、15歳~65歳の労働者人口はさらに急速に減少していきます。その結果、すでに社会問題化している社会保障費支出の高騰や国際競争力低下に伴う税収減などを招き、国家財政は破綻一歩手前の危機を迎えています。

 

 

一方、日本の労働生産性は、1970年代から主要先進7カ国中最下位のままで、OECD加盟35カ国の中でも20位(2016年)とかなり低いレベルにとどまっています。
人口が拡大していく局面では「仕事は終わるまでやればいい」という物量作戦で世界を勝ち抜くことができましたが、人口減少局面に入り、その作戦では生き残れなくなってきたのです。
すなわち、今後、日本が世界で生き残っていくためには、時間あたり付加価値の増加、すなわち労働生産性の向上を図るしか道がないということなのです。

 

○働き方改革の概要

 

このたび改正になった働き方改革は、大きく①労働時間法制の見直し、②雇用形態に関わらない公正な待遇の確保の2つに分けることができます。①についてはすでに2019年4月1日に施行になっており、②については2020年4月1日からの施行が予定されています。
それぞれについての概要は以下の通りです。

 

①労働時間法制の見直し


(1) 残業時間の上限規制
・労働基準法70年の歴史で初めての大改革
・初めて法律で残業時間の上限が決められました
・残業時間の上限は、原則として月45時間、年360時間
・臨時的な事情があって労使の合意があっても、年720時間以内、複数月平均80時間以内(休日労働を含む)、月100時間未満、45時間超は年間6か月までのいずれもを満たす必要
・自動車運転の業務、建設事業、医師などについて猶予や除外があります
(2) 勤務間インターバル制度の導入
・翌日の出社までに一定時間以上の休息を確保することを努力義務とします

(3) 1人1年あたり5日間の年次有給休暇の取得の義務づけ
・労働者が年休取得を申し出なくても、使用者が労働者の希望を聞き、時季を指定します

(4) 月60時間を越える残業の割増賃金率をすべての企業で引き上げ
・中小企業ではこれまでの25%だった割増率が大企業と同じ50%になります

(5) 働く人の健康管理の徹底
・管理職や裁量労働制適用者も対象に
・労働時間の状況を客観的な方法で把握することが義務となります

(6) フレックスタイム制の拡充
・労働時間の調整が可能な期間(清算期間)を1か月から3か月に延長されます

(7) 高度プロフェッショナル制度を新設
・働く人の健康を守る措置を罰則付きで義務化
・対象はコンサルタント業務や研究開発業務など、高度の専門知識を必要とする高度専門職のみです
・対象は希望者のみです
・対象は、1075万円以上の年収がある高所得者のみです

(8) 産業医・産業保健機能を強化
・労働者数50人以上の事業場においては、産業医の選任、衛生委員会の設置が義務化されています

 

②雇用形態に関わらない公正な待遇の確保


(1) 不合理な待遇差をなくすための規定
・正規雇用と非正規雇用で基本給や賞与について不合理な待遇差を設けることが禁止されます
・職務内容(業務内容+責任)、配置の変更の範囲等を考慮し、均衡待遇を求め、不合理な待遇差を禁止します
・職務内容(業務内容+責任)、配置の変更の範囲を考慮し、均等待遇を求め、差別的取扱いを禁止します
・派遣労働者については、均等均衡待遇とするか、労使協定による待遇を求めます
・同一労働同一賃金のガイドラインが厚生労働省より発表されています
 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190591.html

(2) 労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
・非正規雇用労働者は、自身の待遇について説明を求めることができるようになります

(3) 行政による指導強化等

 

○なぜ残業時間に上限を設けるのか?

 

残業時間に上限を設ける目的については、電通事件を受けた(過労自殺防止など)労働者の健康を増進する目的や、いわゆるライフワークバランスを図ることを思い浮かべがちですが、私は真の目的はそこにはないと考えています。
下の図をご覧ください。

8時間で80の価値を生産できる人が1.5倍の12時間働いた場合、1.5倍(80×1.5)の120の価値を生産できるかというと、そうはなりません。誰でも長時間働くと集中力が落ちますので、せいぜい110程度しか価値が生み出せないはずです。
一方、8時間勤務の際の人件費が56だったとすると、4時間残業をすることによる割増賃金が28かかるので、12時間勤務の際の人件費は98となります。すなわち、企業の利益は8時間労働の場合(24)より、残業させて12時間労働をさせた場合(12)の方が半減しているのです。


たとえば、24時間を3人で分けて勤務した場合と、2人で分けて勤務した場合を図3のように比較してみると、前者の利益が72であるのに対して、後者の利益は24にしかならないといったように、企業にとっても残業を抑制し、能率よく働いてもらうことが競争力を高めることになることがお分かりいただけると思います。

 

 

このように、働き方改革は、ライフワークバランスややりがいの向上といった働く人目線の目的だけでなく、時間当たり付加価値を向上させるという会社目線の目的、競争力を高めて法人税収を得ることにより国家を継続可能にさせるという国家目線の目的も併せて考えることで深く理解することができます。

 

 

 

〇どのように仕事の密度を高めるか?

 

最後に、どのようにすれば労働生産性を高めることができるかについて、いくつかの具体例を挙げてお話ししましょう。

まず、典型的な時間の無駄は、会議などの場面で表れます。
たとえば、10人が参加する会議で、だれかが10分遅刻をしてきたことによって会議の開始が遅れたとすると、それだけでのべ100分(10分×10人)の時間が浪費されます。
また、その会議は、本当に10人も参加する必要があったのでしょうか。たとえば、3時間かかった会議の参加メンバーが本当は7人でも良かった場合には、のべ9時間(3時間×3人)の時間が浪費されたことになります。
会議のメンバーを厳選し、会議を分けるなどして、本当に必要な人だけの会議体を構成することが大切です。

また、上司が部下にどのような指示を出すかや、部下をどのように評価するかも大切なポイントです。
たとえば、
(上司)「田中くんは甲子園に行ったことがあるの?」
(部下)「いえ、ありません。」
(上司)「そうなんだ。田中くんは野球好きなのに、意外だね。」
(部下)「え、もちろん試合を見に行ったことならありますよ。」
といった会話では、上司の認識(甲子園に野球観戦に行ったことがあるか?)と、部下の認識(高校時代の野球部で甲子園出場を果たしたか?)でずれがあります。最初に認識のずれがあると、これを修正するために時間がかかってしまいます。

同じ理由で、
(上司)「目標達成のために、各自が自由な発想で挑戦してくれ!」
(部下)「いいアイデアが浮かびました!こんな内容でチャレンジさせてください!」
(上司)「おれのこれまでの経験上、それはうまくいかないから違う方向からチャレンジをした方が良いと思うよ。」
といったやりとりがあったとすると、部下がこれまで一生懸命企画を考えた時間が無駄になってしまいます。

さらには、
(A)30分でできた80点の営業資料
(B)1日かけて作った100点の営業資料
のどちらをより評価するかという視点も重要です。結果だけでなく、それにかけた時間も含めて評価することを忘れてはいけません。

働き方改革の核心は、労働生産性を高めることにより時間当たりの付加価値を最大化し、企業の競争力を高めることにあります。ぜひ、各企業で工夫をしてみてください。